oto`s life

初めまして。oto(オト)と申します。本に纏わるお話をしています。気軽に覗きにきてください。

悪寒 伊岡瞬・著 【感想】 独り歩きする嘘と埋もれていく真実

こんにちは

オトです

 

今回は、伊岡瞬さんの「悪寒」という本についてお話ししたいと思います。

 

何年か前に「痣」「代償」という作品を読んだことがあります。

なので伊岡瞬さんの作品は3冊目になります。

 

 

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悪寒

 

 

あらすじ

大手製薬会社社員の藤井賢一は、不祥事の責任を取らされ、、山形の系列会社に飛ばされる。鬱屈した日々を送る中、東京で娘と母と暮らす妻の倫子から届いたのは、一通の不可解なメール。数時間後、倫子を傷害致死容疑で逮捕したと警察から知らせが入る。殺した相手は、本社の常務だった・・・。単身赴任中に一体何が?絶望の果ての真相が胸に迫る、渾身の長編みステリ。

 

 事の始まり

地方に出向になり単身赴任中の藤井賢一の元に届いたメールは、不可解なものだった。

 

おかしくなったのは数ヶ月前。

妻と娘が同時期に、「連絡は、電話でせずにメールにしてほしい」とお願いされたことだ。

娘の香純は反抗期。父親との関わりを避けたがるのはもはやその時期に入ってしまえば当たり前だ。

しかし妻の倫子は?

正月に上司に散々な嫌味を言われながらも無理矢理休みを取り家族の元へ帰った賢一だったが、夜に“何もなかった”どころか断られた。

 

会社で嫌味を言われ続け

家族には距離を取られ

むしゃくしゃしながら会社の女の子と食事をしたあの日。

 

何となく、誤ってしまいたかったのではないかと感じる。

あの妻からのメールがなかったらその女の子とはその後どうなっていたか

という警察からの質問には「何もないと断言できる」と答えているが、やましい気持ちがあったわけでなく、純粋に鬱憤を晴らしたく、間違えてしまいたかった、そんな気がする。

ただ、賢一から出てくる彼女の行動や仕草の表現は、まさに男の人が女の人に向ける“それ”だったから、ほんの少しはやましい気持ちがあったかもしれない。

 

ただその後があったにしろなかったにしろ、途中でメールが入った。

その一通のメールで賢一の生活は一変する

 

あちこちに転がる嘘

 

家に戻った賢一を待ち受けていたのは想像を絶するものだった。

しかし、その割に物語はゆっくり進んでいく。

 

やがて裁判が始まり、物語はおかしな方向に。

あちこちで自分が犯人だと告白し始める人が現れたのだ。

 

私がやったからママを解放してと叫ぶ娘

私が犯人を殴ったと自首しに行った認知症の母

義母が殴った後に自分がとどめをさしたと告白する義妹

 

そして、「自分がやりました」という自白をし続ける妻。

 

誰が本当のことを言い、誰が嘘をついているのか。

誰が誰を守り、誰が誰を陥れようとしているのか。

 

賢一は次から次へと浮かび上がってくる事実と嘘に翻弄され、やがて妻の過去さえも信じられなくなっていく。

 

真壁刑事

 

真壁刑事は以前、伊岡さんの作品「痣」に出てきた主人公(?)でこんなところで出てくるとは思っていなかったが、真壁目線ではなくて賢一目線から見るとその洞察力と粘りは恐ろしいものに見える。

 

なにもかもがわからなくなった賢一に真壁はこう言った。

愛するということは、何があっても信じることではないでしょうか。そして、わが身に代えてもかばうことではないでしょうか 

 

 その言葉に賢一は前を向いたように感じる。

 

この時、真壁には真相が見え始めていたのかもしれない。

妻を信じろ、そうやって賢一の背中を叩いたように感じた。

 

 

 真相

やがて真相に気づいた賢一は、倫子の妹・優子に問い詰める。

 

すると衝撃的な告白をされる。

 

小さい頃から姉を憎み続け

姉の家庭を壊したくて賢一の上司と関係を持ち

姉一家を破滅させようとした。

 

優子が何かをミスすると必ず「自分がやった」と庇ってきた倫子。

今回もそれを分かっていて犯行に及んだのだ。

 

歪んでる。

そう思った。

 

やがて裁判で、被害者を憎んでいたのかという問いに優子はこう答えている。

なぜなら、もっと徹底的に、姉の一家を破滅に追い込んでくれなかったからです。姉の一家がバラバラに離散するのを期待していたから、我慢して抱かせてやったのに。へらず口と性欲ばかり旺盛で、やることが中途半端だったからです

 

「もらわれっこ症候群」

自分が他所から来た子だと思ってしまうことらしいが、それがこんな事件を引き起こしてしまった。

優子のミスを常に倫子が庇い

父は倫子にだけ優しく、優子にだけ厳しかった。

その環境が優子を歪ませた。

 

しかし逆だったのだ。

他所から来たのは、優子ではなく倫子だった。

倫子は母の一度の過ちによってできた子供だった。

だからこその父の態度の違いだったのかもしれないと今になって思う。

父の本当の子供ではなかったから、そうするしかなかったのかもしれない、と。

 

その事実を優子に伝えていればこんなことは起きなかったかもしれないと悔やむ倫子だが、あの歪み方は私の目には異常なもののように映る。

遅かれ早かれそうなっていたのではないかと感じてしまった。

 

最後に

 

この事件によって妻の心の内をしれた賢一。

 

「『もう、あんな遠くへ行かないで。そばにいてよ』って喉まで出かかっていた時期だったから

 

 あの夜、拒んだのは弱音を吐いてしまいそうだったから。くじけてしまいそうだったから。

 会社を辞め、家に戻った賢一が家族を信じ家族を守り幸せな家庭を築いて欲しいと願う。

 

 

中年男の鈍感さは、それだけで犯罪 

 

この言葉に負けるな、そう思った。

 

ではまた。

悪寒 (集英社文庫(日本)) [ 伊岡 瞬 ]