oto`s life

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九つの、物語  橋下紡・著 【感想】 死んだ兄との不思議で幸せな日常

 こんにちは

 

今回は橋下紡さんの「九つの、物語」についてお話ししたいと思います。

 

私はこの本を一度、二年前に読みました。

読み終わった後、私はこの本を抱きしめたことを覚えています。

 

この物語を、大切にしたい、と。

 

これをきっかけに誰かにとっても大切な本になってくれたら、と思います。

 

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九つの、物語

あらすじ

大学生のゆきなの前に、二年前に死んだはずの兄が現れた。よく変わる愛する女性、こだわりの詰まった料理、そして多数の本。生前となに一つ変わらない兄との生活を、ゆきなはやがて日常として受け入れていく。本の感想を語り、一緒に食事をする。そんな日常がずっと続くと思えたが・・・。

不安定で脆い心と、死んだ人との不思議な日常。その中で気づく生きることの痛みと辛さと、尊さ。優しくも強い、物語。

 

 

九つの、名作

実際に存在する、近代文学の名作が土台とされていて、登場してくる物語は

この九つ。

 

1「縷紅新書」泉鏡花

2「待つ」太宰治

3「蒲団」田山花袋

4「あぢさゐ」永井荷風

5「ノラや内田百間

6「山椒魚(改変前)」井伏鱒二

7「山椒魚(改変後)」井伏鱒二

8「わかれ道」樋口一葉

9「コネティカットのひょこひょこおじさんサリンジャー

 

 

これらを中心に、ゆきなと兄が思うところを話してみたり、時には感想がわかれ、時には思うことが重なり、そんなところもこの本の見どころである。

 

同じ本から浮かぶ感想は読んだ人の数だけある。そう思うと楽しい。

 

死んだはずの、兄

それは、何の前触れもなく、普通にゆきなの目の前に現れた。

 

「あのさ、ゆきな、勝手に俺の部屋に入るなよ」

 

たったその一言で、おかしな日常が始まった。

 

両親は海外にいるため、ゆきなと兄の2人暮らしが始まる。

本を読み、思ったことを言い、料理をして、同じ家で眠りにつく。

そんな日常をゆきなは受け入れ、そして続けばいいと願う。

 

本と料理と女性を愛し

適当に見えてよく考えていて

食事の前はきちんと手を合わせていただきますと言い

饒舌で

調子が良い

 

そんなちょっとムカつく兄との日常を受け入れない理由は、ゆきなにはない。

 

 

脆く弱い心をもつ女の子

 

ゆきなは普通の、どこにでもいる大学生だ。

何の変哲もなく、様々なことに一喜一憂し、彼氏がいて、本が好きで、真面目な大学生。

 

ただ、少し触れると壊れてしまいそうなそんな危うさをもつ女の子。

その脆い心をもつ女の子を見守る、周りの人たち。

 

兄が死に、きっと心のどこかに蓋をした。

兄が死んだ理由も忘れるぐらいに、奥深くの部分に蓋をして、ずっと膝を抱えていた。

心はずっと泣いていた。

けれど涙を流すこともできない、助けてと声をあげることもできない女の子の周りにはその子を想う人がいた。

 

兄だけじゃない

母も父も。

紺野君も香月君も。

 

大丈夫、そう言うように抱きしめ、手を繋いでくれる人たちが。

 

それに気づいた時、ゆきながきちんと泣けるようになるために。

幸せになれるように、たくさん笑えるように

そのためにきっと兄は現れた。

 

 

妹に残した兄の想い

 

結局、兄との日常は現実であったものなのか、ゆきなの想像だったのか、確かなことは描かれていない。

 

けれど、確かにゆきなは救われた。

 

兄の姿に、兄が残した料理、残した沢山の本。

 

最後のシーンがすごく好きだ。

兄とキッチンに立ち教えてもらったスパイスをたっぷり使ったトマトスパゲティ。

それを作ってあげると香月君を誘うシーン。

 

これだけで、幸せだと感じる。

 

姿は見えなくなってもきっとどこかで見守っている。

ゆきなが幸せになれるように。

沢山笑えるように。

 

そんな兄の思いをゆきなはきちんと胸にしまったのだろう。

 

これからの未来が明るいことを、ただただ願う。

 

最後に

 

九つの近代文学の名作を読んだ後に、またこの本を読んだらきっと違う感情をもつのだろう。

苦手意識のあるこれらの本も少し読んでみようと思えた。

 

明日も明るい未来であることを願おう。

 

ではまた。

 

 

 

九つの、物語 (集英社文庫) [ 橋本紡 ]